東京高等裁判所 平成7年(行ケ)27号 判決 1997年7月08日
フランス国75007パリ
ブルバール・デ・ザンバリッド35
原告
ルセル・ユクラフ
同代表者
ジャン・クロード・ビエイユフォス
同訴訟代理人弁理士
倉内基弘
同
風間弘志
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
同指定代理人
宮本和子
同
小川慶子
同
後藤千恵子
同
小池隆
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が平成3年審判第13290号事件について平成6年9月7日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文第1、2項と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和52年1月21日、1976年1月23日フランス国においてした特許出願ほか2件に基づく優先権を主張して特許出願(昭和52年特許願第5049号-以下「原出願」という。)をし、昭和55年3月13日、原出願からの分割出願として特許出願(昭和55年特許願第30970号)をし、さらに、昭和56年7月31日、上記昭和55年特許願第30970号からの分割出願として特許出願(昭和56年特許願第119432号)をし、さらに、昭和62年1月14日、上記昭和56年特許願第119432号からの分割出願として、発明の名称を「2-(2-アミノチアゾリル)-2-ヒドロキシイミノ酢酸誘導体及びその製造法」とする発明につき、特許出願(昭和62年特許願第5195号)をしたが、平成3年3月13日拒絶査定を受けたので、同年7月2日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成3年審判第13290号事件として審理した結果、平成6年9月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年10月12日原告に送達された。
2 本願発明の要旨
(1) 特許請求の範囲第1項記載の発明(以下「本願第1発明」という。)
次の一般式
<省略>
syn異性体
(ここでR2は水素原子、トリチル又はホルミル基を表わし、R’2は水素原子(R2が水素原子のとき)、トリチル又はホルミル基を表わし、A’は水素原子又はalk(alkは1~4個の炭素原子を有するアルキル基である)を表わす)
を有する、実質上anti異性体を含まないセファロスポリン化合物製造用化合物又はその官能性誘導体。
(2) 特許請求の範囲第3項記載の発明(以下「本願第2発明」という。)
次式Ⅱ
(Ⅱ)
<省略>
syn異性体
(ここでR1はトリチル又はホルミル基を表わし、A’は水素原子又はalk(alkは1~4個の炭素原子を有するアルキル基である)を表わす)
の化合物を製造する方法であって、チオ尿素と次式Ⅲ
(Ⅲ)
<省略>
(ここでR’は水素原子、トリチル又はホルミル基を表わし、alkは1~4個の炭素原子を有するアルキル基を表わす)
の化合物とを反応させて、塩基で処理した後、次式Ⅳ
(Ⅳ)
<省略>
(ここでR’及びalkは先に示した意味を有する)
の化合物を得、式Ⅳの化合物をトリチル又はホルミル基の官能性誘導体で処理して次式ⅴ
(Ⅴ)
<省略>
(ここでR1はトリチル基又はホルミル基を表わす)の化合物を得、要すれば式ⅴの化合物を塩基、次いで酸で処理して所期の式Ⅱの酸を得ることを特徴とする式Ⅱの化合物の製造法。
(3) 特許請求の範囲第4項記載の発明(以下「本願第3発明」という。)
次式Ⅳ
(Ⅳ)
<省略>
syn異性体
(ここでR’は水素原子、トリチル又はホルミル基を表わし、alkは1~4個の炭素原子を有するアルキル基を表わす).
の化合物をsyn形で得るにあたり、チオ尿素と次式Ⅲ’
(Ⅲ’)
<省略>
[ここでXは塩素又は臭素原子を表わし、R’bは水素原子、トリチル又はホルミル基を表わし(Xが塩素原子を表わすとき)或るいはR’bは水素原子を表わす(Xが臭素原子を表わすとき)]
の化合物とを反応させることからなり、しかもその作業を実質上化学量論的量のチオ尿素の存在下に水性溶媒中で行なうか、或るいは周囲温度で実施し、そしてその反応を数時間の限られた間に行なうか、或るいはその作業を上記の条件の全てを組合せて実施することを特徴とする式Ⅳの化合物をsyn形で製造する方法。
3 審決の理由の要点
(1) 本願第1ないし第3発明の要旨は、前項記載のとおりである。
(2) これに対して、本願の優先権主張の日前の1975年6月9日に英国にした特許出願(以下、この出願明細書を「英国特許出願明細書」という。)に基づいて優先権を主張して昭和51年6月8日に出願され、その後に出願公開された特願昭51-67524号(特開昭51-149296号公報参照)の出願当初の明細書(以下「先願明細書」といい、同公開公報をもって示す。)には、一般式
(XⅡ)
<省略>
[式中、Xはハロゲンを、Yは水素でZは保護されていてもよいアミノ基を示すか、YとZが=NR5(R5は保護されていてもよい水酸基)で表される基を示す]で表される化合物と、式
(XⅢ)
<省略>
(式中、R12は低級アルコキシ基または保護されていてもよいアミノ基を示す。)で表される化合物を反応させ、要すれば保護基を除去することからなる式
(XⅣ)
<省略>
(式中、R13は水酸基または保護されていてもよいアミノ基を、他は前記と同意義を示す。)で表される化合物の製法が示されており(同5頁左上欄~右上欄)、式(XⅣ)で示される化合物はセファム系化合物の中間体の原料化合物として用いられることが記載されている。基R13としてはアミノ基自体でも、アミノ基の保護基としてはアルデヒド基を採り得ること、R5としては水酸基自体でも、水酸基の保護基としてメチル、エチルなどの低級アルキル基を採り得ること、上記一般式中カルボキシル基はメチル、エチル等のアルキル基で保護されていてもよいこと(後記する具体的化合物からみて)が示されている。式(XⅡ)と式(XⅢ)との反応は、ほぼ当量宛を反応させるのがよく、通常溶媒中で行い、反応に支障のない有機溶媒が用いられ、メタノール、エタノール、プロパノール、テトラヒドロフランなどが用いられ、室温ないし還流条件下に好適に進行し、数10分(なお、優先権主張の英国特許出願明細書20頁末行では1時間と記載)~数時間で反応は終了すること、式(XⅣ)で示される生成化合物は必要により分離することができることが示されている(同10頁左上欄~右上欄)。そして、2-オキシイミノチアゾール-4-イル酢酸誘導体は、オキシイミノ基に関して理論的にsyn-及びanti-の両異性体が存在し得ること(同10頁左下欄13行ないし17行)が示されている。そして、具体例として、実施例29には、α-オキシイミノ-β-オキソ-γ-クロロ酪酸エチルとチオ尿素をエタノール中で2時間加熱還流下に反応させることにより、2-アミノチアゾール4-イル-α-オキシイミノ酢酸エチル(以下、この化合物を「化合物A」という。)が得られたことが記載されている。そして、これら記載は英国特許出願明細書にも実質的に共通して記載されているものと認められる。
(3) そこで、本願第1発明と先願明細書に記載の発明(以下「先願発明」という。)を対比すると、先願明細書には、前記記載からみて、式(XⅣ)で示される化合物が、オキシイミノ基の立体構造としてsyn及びantiの両異性体が存在しえるものとして製造できることが記載されており、具体例としての前記実施例29の製造条件で生成される化合物は、本願第1発明の前記一般式で示される化合物において、基-NH-R2のR2が水素であり、基=N-OR’2のR’2が水素であり、基alkがエチルであるものに相当するので、両者は、この化合物Aを前記の化合物名として同じくする点で一致し、この化合物がオキシイミノ基の立体構造上において、本願第1発明のものはsyn異性体であるのに対して、先願明細書には前記のように立体構造について理論的にはsyn異性体が存在し得ることは記載されているものの、化合物Aのsyn異性体について製造できることが、実施例29にも明示されていない点で一応相違しているものと認められる。
(4) 以下、上記相違点について検討する。
化合物Aのsyn異性体の製法について、本願明細書には、前記本願第3発明の方法により行われることが示されており(本願明細書13頁、14頁)、その実施例として例3に水性エタノールを反応溶媒として用い、周囲温度で1時間かきまぜて反応させる方法が示されている。それとともに、syn異性体の前記製造方法とは異なるanti異性体を主として製造する方法としてではあるが、例1の工程Aには、エタノール中で周囲温度で16時間かきまぜて反応させる方法が記載されており、同反応における数回の母液と洗浄水を集めたものからsyn異性体が得られたことが記載されている。
そうすると、先願明細書に記載の前記の式(XⅣ)の化合物の一般的な製造条件も、実施例29の具体的条件であるエタノール中で2時間加熱還流下に反応させる条件も、前記本願第3発明のsyn異性体の製法とは反応溶媒、反応温度の条件で相違しており、またanti異性体を主として製造する例1の工程Aの製造条件とはエタノールを用いる点では一致しているもの反応温度条件を異にしており、先願明細書に記載の製造条件では化合物Aは、syn異性体は生成されず、anti異性体のみであるとみなければならないことは本願明細書には示されてない。ただ、本願出願人(原告)は、先願の英国特許出願に基づいて優先権主張してされた米国への特許出願における先願出願人が米国特許庁に対して提出した書面(本願の原審における平成2年12月5日付け意見書に添付の参考資料1)において、同実施例29の生成化合物はanti異性体であることを述べていると主張する。
しかしながら、参考資料1には、先願明細書に記載の前記式(XⅣ)の化合物の理論的にsyn及びantiの両異性体が存在し得るものとして一般的に示された製造条件のいずれによっても、化合物Aはsyn異性体としては生成できないことまでも先願出願人が述べるものではなく、また該実施例29の生成化合物Aはanti異性体であると記載されているものの、anti異性体だけであり、syn異性体は全く生成していないことまでも述べるものではなく、また、本願出願人も確認できる資料に基づいて否定していない。むしろ、該実施例29は、本願明細書に記載の前記工程Aとはエタノールを反応溶媒として用いている点では類似しており、該工程Aにより、anti異性体のみならずsyn異性体を生成することが示されていることからみると、syn異性体の生成も否定することができないものである。さらには、当該化合物におけるオキシイミノ基の立体構造が、生成化合物においてsyn異性体をとるか、anti異性体をとるかは、二者択一に必ず生成するというものではなく、両異性体の混合物として生成することが有り得ることは、先願の出願前に知られている(必要ならば、特開昭47-27991号公報、特開昭48-4487号公報参照)ことである。
そうしてみると、先願明細書には、実施例29における生成化合物Aとしては、前記参考資料1の存在にかかわらず、anti異性体のみならず、syn異性体の生成をも否定することができないものであり、さらに、先願明細書には化合物Aを包含する式(XⅣ)で示される化合物の一般的製造条件は、syn及びantiの両異性体を含有するものとして、該実施例29に示される還流条件だけではなく、同反応温度については室温から還流温度まで、反応時間については数10分(1時間)から数時間までと幅広い条件が、該実施例29の製造条件に代えて適宜に採用することができるものとして示されており、該一般的製造条件によれば、化合物Aの製造についても、anti異性体の生成だけではなく、syn異性体の生成か、又は少なくとも両異性体の混合物も生成され得る条件を包含するものとして示されているものとみることができ、先願明細書には、実施例29のみならず、化合物Aについてanti異性体だけではなく、syn異性体も生成したも同然のものとして開示されているものと認められる。本願第1発明において、「実質上anti異性体を含まない」と規定しているが、このことは純粋なsyn異性体を意味するが、化学物質発明としては混合物としてであっても同じ化合物が開示されているものとみられるならば、異なるものではない。
(5) したがって、本願第1発明は、化合物Aのsyn異性体について、先願明細書及び第一国出願明細書に共通して記載された発明と同一の発明と認められ、かつ先願に係る発明者と同一であるとも、また、本願出願の時にその出願人が先願の出願人と同一であるとも認められないので、特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)は認める(ただし、原告は相違点は他にもあると主張する。)。同(4)は認める。同(5)のうち、「先願に係る発明者と同一であるとも、また、本願出願の時にその出願人が先願の出願人と同一であるとも認められない」ことは認め、その余は争う。
審決は、本願発明が用途発明であるにもかかわらず、これを化学物質の発明と誤認した結果、本願発明と先願発明との相違点を看過した違法があるから、取り消されるべきである。(取消事由)
(1) 審決には、本願第1発明が用途発明であるにもかかわらず、これを化学物質発明と認定した誤りがある。
<1> 本願第1発明の特許請求の範囲には、「セファロスポリン化合物製造用化合物」と記載されており、その記載は、「セファロスポリン化合物の製造に特に適した特定化合物よりなる原料」すなわち用途発明を請求したものである。
<2> 被告主張のように特許請求の範囲の語尾が「・・・化合物」とあれば直ちに化学物質発明を請求するものであると判断することは、不合理である。発明のカテゴリーは特許請求の範囲の記載から実質的な内容によって認定すべきである。例えば、用途発明としては、「・・・化合物よりなる殺だに剤」、「・・・化合物よりなるX線造影剤」等があるが、それぞれ「・・・よりなる殺だに用化合物」、「・・・よりなるX線造影用化合物」としても表現形式の違いにすぎず、実質的に同一である。
被告は、本願発明は用途発明の定義に該当しないので本願発明は用途発明とは把握できない旨主張する。確かに、本願発明は用途発明の定義には該当しないが、特定の化学物質の有用な用途の発明には違いがない。用途限定を付した化合物の発明も「自然法則を利用した技術的思想の創作」(特許法2条)には違いがなく、用途限定を付した化合物として保護されるべきである。本願第1発明がこのままら特許になっても、特許請求の範囲に明示の用途限定があるにもかかわらず、これを無視して本願特許請求の範囲に規定された発明が化合物自体の発明であると拡張解釈されるおそれはない。
(2) そして、先願明細書には、本願発明の一般式のsyn化合物が相当するanti異性体よりも抗菌活性が非常に高い目的セファロスポリン化合物を製造できるとの記載はないから、本願第1発明(用途発明)は先願発明と同一ではない。
すなわち、本願発明の一般式のsyn異性体が相当するanti異性体よりも抗菌活性が非常に高い目的セファロスポリン化合物を製造できると先願明細書に記載されているとするには、syn異性体が単離され、かつ、その抗菌活性が試験されていなければならない。先願明細書には、syn異性体を単離したとの記載はない。本願第3発明の製造条件は、先願明細書に記載の式(XⅣ)の化合物の一般的な製造条件とも、実施例29の具体的条件とも明らかに異なるものである。したがって、先願明細書に記載の製造条件では化合物Aは実質上syn異性体の形態では生成しないと推定される。
さらに、先願明細書には、本願発明の一般式のsyn異性体が相当するanti異性体よりも抗菌活性が非常に高い目的セファロスポリン化合物を製造できることを確認したとの記載も示唆もない。
第3 原告の主張に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1)<1> 発明は、特許請求の範囲の記載に基づいて把握するものであり、特許請求の範囲の記載が明瞭であれば、一般的に、発明のカテゴリーはその特許請求の範囲の記載の末尾から判断される。用途発明の表現形式には、一般的には「・・・を用いる~方法」又は「・・・剤」があり、このように表現することにより、用途発明は物質の発明と区別される。これに対し、物質の発明では、特許請求の範囲において、物質を指し示す名詞形で終わる。
そこで、本願第1発明の表現形式をみると、その末尾は、「・・・化合物又はその官能性誘導体」となっており、一般に化学物質発明のカテゴリーを示す表現を採用している以上、本願第1発明を化学物質発明であると認定することは、自然な解釈である。
<2> 本願第1発明の「セファロスポリン化合物製造用」との限定は、その化合物がセファロスポリン化合物製造用中間体であるというその物の使用範囲あるいは使用目的を示しているにすぎず、用途発明を構成するための用途限定には当たらない。このような限定は、最終物質の原料になるという中間体の有用性(産業上の利用性)を示すにすぎず、何ら化学物質(すなわち中間体である化合物)自体のもつ新しい属性の発見に基づいた用途を示していないからである。
<3> 原告は、「・・・化合物よりなる殺だに剤」を「・・・よりなる殺だに用化合物」と表現しても、実質的に同一である等と主張するが、原告が挙げるこれらの例は、用途発明を構成し得る用途についてのものである。これに対し、本願第1発明の「セファロスポリン化合物製造用」という限定は、中間体であることを示しているにすぎず、上記例と同列に論どることはできない。
(2) したがって、本願第1発明は化学物質発明であるから、先願明細書に開示された発明と同一発明であるとした審決の判断に誤りはない。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
そして、審決の理由の要点(2)(引用例の記載事項の認定)は当事者間に争いがなく、同(3)(一致点、相違点の認定)は、当事者間に争いがない(ただし、原告は相違点は他にもあると主張する。)。
2 そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。
(1) 原告は、本願第1発明の特許請求の範囲における「セファロスポリン化合物製造用化合物」との記載は、「セファロスポリン化合物の製造に特に適した特定化合物よりなる原料」すなわち用途発明を請求したものである旨主張する。
しかしながら、本願第1発明の要旨(特許請求の範囲第1項)は、前記のとおり、「次の一般式・・・を有する、実質上anti異性体を含まないセファロスポリン化合物製造用化合物又はその官能性誘導体。」というものであり、末尾は「化合物又はその官能性誘導体」で終わり、その前の「セファロスポリン化合物製造用」との記載も、本願第1発明が最終目的化合物であるセファロスポリン化合物の製造用の中間体であることを明確にし、中間体である化学物質の有用性を示しているにすぎないものと認められるから、本願第1発明は、化学物質発明と認定すべきものと認められる。なお、原告が、化学物質発明そのものではなく、特許請求の範囲第1項に記載された化合物又はその官能性誘導体が最終目的物であるセファロスポリン化合物の製造に特に適した原料となるとのを技術思想について特許を請求するのであれば、「A化合物を中間体として使用することのみが特徴である化合物Bの製造方法」のように特許請求の範囲を記載することによってその目的を達することができるものである。したがって、この点の原告の主張は採用できない。
(2) 審決の理由の要点(4)は当事者間に争いがない。
したがって、本願第1発明は、化合物Aのsyn異性体について、先願発明書及び第一国出願明細書に共通して記載された発明と同一の発明と認められるとした審決の判断に誤りはないと認められる。
そして、「先願に係る発明者と同一であるとも、また、本願出願の時にその出願人が先願の出願人と同一であるとも認められない」ことは、当事者間に争いがないから、本願は特許法29条の2の規定により特許を受けることができないとした審決の判断に違法はないと認められる。
3 よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の定めについて行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)